「ねぇ、もこちゃん、わうくん」

「今から皆でおにごっこするんだけど、一緒にやらない?」


お昼休み。

同じクラスの子が、おにごっこをしようとさそってくれました。


みんなと遊ぶのすごい楽しそう…

でも…


私は少し不安だった。


「…いいの?」


「あたりまえだよ!じゃぁ、じゃんけんね、さしょはグーじゃんけん…」


ぽん!

わたしは、おもいきって手を大きく開いてパーをだした。


他のみんなは…

「へ…」


「あははっ…もこちゃんひとり負けだぁ、じゃぁ私達グラウンド行ってるから、1分経ったら追いかけてきてね!」


わー!と、楽しそうに走ってゆくみんな。


不安です。

……私はすごく足が遅いから


「――58…59……60!」


よぉーし!

ダーッと勢いよく教室を飛び出して、グラウンドへと向かう。


「はぁっ…はぁっ…」


もこ、がんばれ。

皆に追いつくんだよ。


そうやって自分に言い聞かせて、一生懸命に走る。


やっと下駄箱に到着して、外靴にはきかえようとしたとき、ガタンと大きな物音が聞こえてきた。

「いてっ」

……だ、だれか転んだ?!


慌てて反対側にまわると、ふわふわのミクルティー色の髪の毛がふわりと揺れた。


「へ…わ、わうくん…?」


先に皆とグラウンドに行ったはずじゃ…


あっ…じゃなくて!


「え、えいっ」


私は今おにごっこしてるんだった。


慌ててわうくんの肩にトンと触れた。

すると、わうくんはへにゃりと笑う。



「へへっ…つかまっちゃった」


「じゃぁ、もこちゃんは1分以内に逃げてね。俺いまからここで数えるから」


よく見れば、わうくんのおでこがちょっとだけ赤くなってる。


「…ね、わうくんおでこぶつけたの?」

「さっきすごい音したけど…」


それに、


「どうしてここにい――」


チュッ…と、優しく唇に触れたのは、わうくんの柔らかい唇。


まるで口止めみたいな、ちょっぴり強引で甘いキス。


……珍しい



「…恥ずかしいから、秘密」



コテッと首をかしげる仕草が、甘くて可愛くて……とろけそうです



結局その後、一緒におにごっこをした同じクラスの女の子が教えてくれました。


「ごめんねっ、もこちゃん走るの苦手だって知らなくて」


「えっ…ううんっ…すごく楽しかった。ありがとう」


「……もこちゃんって…すっごく大切にされてるんだね」


「え…?」


「あのとき、皆でグラウンドに向かったんだけどね、わうくんが途中でやっぱり先に行っててって慌てて戻って行ったの」


「きっとすごく心配だったんじゃないかなぁ」


「ルールも無視しちゃうくらい」


心がぽかぽかあたたかくなってゆく。


「へへっ…そっかぁ」


ねぇ、わうくん。

その真っ直ぐな優しさに、私はいつもすごく救われています。


ありがとう、と思うもこなのでした。