― もこ 高校3年生 ―
今年も桜がひらひら、空を泳いでいる。
その中でわたしは、
「入学おめでとうございます」
ひたすら部活勧誘のビラを配っています。
といっても私は部活に入っておらず、ビラ配りの手伝いをお願いされました。
「これ…よければ見学に来てください」
「あっ、ありがとごじゃいまし!」
緊張してる一年生が小動物みたいで、とてもかわいい。
でも人疲れするなぁ。
ちょっとだけ休もう。
人がいない場所…ってやっぱり裏庭かなぁ
静かな裏庭にはいつも誰もいないはずなのに、ミルクティー色の髪をした人が、大の字に寝転がっていた。
よく見ればブレザーに花がついてあるから、一年生だ。
……いったい、何をしてるんだろう
髪にいっぱい花びらがついてるの、気づいてないのかな。
上からひらひら落ちてくる桜の花びらを空中で掴んだかと思えば、バッと勢いよく上半身を起こした。
な、なにするんだろう…
ふにゃりと笑うその人は、なにかに似ている。
ミルクティー色の髪をした人は、花びらをだんだん口に近づけてゆく。
えっ…
そのとき、おばぁちゃん家にいる大型の犬さんと重なった。
「ポチ!食べちゃだめー!」
ピタリと手が止まって、私をポカンとした顔で見つめている。
……あ、
そしてやっと、おばあちゃん家にいる犬さんの名前を大声で呼んでしまったことに気がついた。
……や、やってしまった…
青ざめる私とは違い、ミルクティー色の髪をした人は、ふんわりとした笑顔で笑った。
「ふっ…あはははっ…」
「桜の匂いをたしかめてただけだよ」
ミルクティー色の髪がふわりと風にゆれた。
「俺の友達がね、桜は匂いなんかないって言うから、たしかめてたんだぁ」
「ちゃんと甘い香り、するんだけどなぁ…」
ふわりと笑うその人は、土と花まみれ。
このとき、私の心はポカポカあたたかくなった。
この日から、
せかせか忙しかった心が、
ゆっくり…優しく流れ始めた、
もこなのでした。