アキさんは当時を思い出すように話し始める。


「贔屓にしている取引先のロビーで担当者がくるまで待っていたんです。そんな時に急いで受付に行く一人の女性がいたんです」
「それが弥生だったの?」
「お義母さんその通りです。弥生は茶封筒を持ちながらキョロキョロして、誰かを探しているようでした。その探し人が私の担当者だったんです」
「ほぉ」

「何故だか担当者も慌てていましてね?彼女が持っていた茶封筒を見るなり、彼女に近づいて話し始めました。恐らく弥生がもっていた茶封筒は担当者のものだったんでしょう。お礼を言われたのか、弥生は少し恥ずかしそうに笑ったんです。その顔がとても健気で、つい頭に残ってしまいました…」


た、確かにだいぶ前にそんな出来事があったなぁ。

私とすれ違った人が茶封筒を落としていったのだ。
その男性がそのまま大きなビルに入っていくのを見て追いかけたんだけど、信号に引っかかって少し遅れてしまったのだ。
その後無事に渡すことができて、かなりお礼を言われた。

まさかあの場にアキさんがいたなんて…!


「担当者にも話を聞いたら、とっても大事な書類が入っていた茶封筒らしく感謝してもしきれないと言っていました。それから数日たって、弥生の会社に行くことがあり案内してもらいました。その時運命だと感じたんです」


アキさんの話を驚いて聞く私と対照的に微笑ましそうに聞く両親。

そのまま和やかに夕食に移り、結婚の日取りや、アキさんの両親との顔合わせの話などしてあっという間に時間が過ぎていった。