「…紫苑、俺以外の奴の名を呼ぶな」



んな無茶な…。



呆れ顔で私に背を向ける獅貴を見上げて、仕方ないなと息を吐く。獅貴の背から顔を覗かせ、『じゅんちゃん』にへらりと笑いかけた。



「あの…」



私の視線の意味に気が付いたのだろう、彼はにこりと微笑んで、軽く会釈した。



鴻上遵(こうがみじゅん)です。鴻上と呼んでください」



敢えて苗字を勧めたのはさり気ない気遣いなのか。私は「どうも」と眉尻を下げて笑った。少しばかり、困ったような笑顔になってしまったかもしれない。




「じゅんちゃん、お腹空いたー」



カウンターにグイッと肘を乗せて寄りかかった陽葵は、ぷくっと頬を膨らませながらそう吐き出した。鴻上さんは、そんな陽葵の頭を軽く撫でて、私たちの方に視線を向ける。



「聞きそびれましたね、ご注文をどうぞ?」



爽やかに笑った鴻上さんに、肩の力がふっと抜けた。