カウンターは入り口から死角になっていて、見えるのはテーブルに写った人影だけだ。獅貴に手を引かれて奥へ行くと、次第に中の様子が明らかになる。
「わ、すごい、"BAR"って感じ」
語彙力が著しく低下したが許して欲しい。本当にそんな感じなのだ。ドラマで刑事さんがウイスキー飲んでる場面みたいな、その背景と同じ感じの内装。
店内は薄暗い。窓がひとつも無いことが理由だろう、いや、無いと言えば語弊がある。カウンターの奥に、小さな曇りガラスがあった。裏はきっと路地裏のビルだし、あそこの窓なら光は入らない。
「紫苑、おいで」
「…っあ、うん」
ほえー…と眺めていた視線を隣の獅貴に戻す。
好奇心を隠さず目を輝かせて辺りを見渡す私を獅貴は優しげに見つめていて、それに不意を打たれて不覚にも胸が高鳴った。
「しーちゃん、あの人、じゅんちゃんだよ」
此方に駆け寄ってきた陽葵を受け止める。くいくい、と裾を掴まれて微笑むと、陽葵は後ろを指さしてそう言った。