「…怖く、ないのか」
ボソッと呟かれた低音に、手当てが終わって物を片付けていく合間に答えた。
「怖いけど、恐怖は人を見捨てる理由にはならないよ」
背を向けていたので、青年がどんな顔をしていたのかは分からない。
「…。…そう、か。…ありがとう」
やけに素直な声に振り返ると、青年はほんの少し微笑んで私を見ていた。
その笑みに驚く。笑顔を浮かべられるような人間には見えなかったから。
「うん、どういたしまして」
言葉を返した瞬間、窓の外がガタガタと揺れる。
どうやら強風が吹いたようだ、隙間風が凍えるように冷たい。まだ寒さが残るから当然か。
「っっ…」
これはヤバい。私は体力も忍耐もある方だが、子供の頃から寒さにだけはめっぽう弱い。
気合いで夜を凌ぐしかないなと頷いて、震える体を両腕で抱き締めながら床に座り込んだ。

