「流石に穴は空けられなかったッス、大丈夫ッス」



良かった、壁に穴を空けないって常識はまだあったみたいだ。



アイツはすぐ暴れて短気で手のかかる奴だが、変なところでちゃんとしているのだ。初対面相手に喧嘩を吹っかける暴虐さを備えているくせに、目上の人間にはお辞儀付きで挨拶をしている。


やっぱよく分からないな、アイツ…。



「…全く…総長にも困ったものですね…」



族やら仲間やらには何ら興味なんて無い。そのくせ人望は熱くて、総長に憧れる人間は大勢居る。



何もしないならそれはそれで諦めるが、滅多に族に関わらないのに、ふらっと出かけては訳ありの下っ端連中を拾って来るのが困りものだ。



アイツも、その一人だった。



他の幹部の言うことは一切聞かないくせに、総長が一言口を出すだけで大人しくなる。それなら尚更総長が来ればよかったのに…。


俺が来ても時間の無駄だと思うが。




「はぁ…仕方ないですね…」



文句を言っていても状況が変わる訳では無い。総長も手伝ってくれなさそうだし、腹を括って行くしかないな。