「…おい…紫苑…」


「はぃ…」


どういうことだと目が問い掛けている。


これは言ってもいいものか、絶対駄目な気がする。だってこれ、そういうことでしょ?陽葵って子どもじゃなくて…――



「しーちゃん大好き。しーちゃんも僕のこと大好きなんだよね?だから会いに来てくれたんでしょ?」



マズイな、これは非常にマズイ。


背後の殺気が尋常じゃない。人でも殺してきたのかってレベルで怒り狂ってるよ、鬼が。


「…あ、あーっと、マリくーん?ちょーっと離れようかー?」



子どもをあやすような声で涼くんが陽葵の肩に手を置く。


チラチラと獅貴の様子を伺っているのは気の所為ではないだろう。涼くんの汗が凄い、何キロ走ったんだってくらい汗だくだ。



「なんで?なんで離れなきゃいけないの?」



本当に意味が分かっていないのか、陽葵はきょとんと不思議そうに首を傾げる。


静かに近付いてきた獅貴は、私を無言で抱き寄せて、陽葵を乱暴に放り投げた。


「わっ」


「うおっ、…っぶねぇ」


小さく声を上げて倒れかけた陽葵を、部屋の奥に居た男子生徒の一人が受け止める。