真っ黒いパーカー姿の青年は微かに私の方を向いたが、前髪のせいでその瞳の感情が読めない。


怒りとか憎悪だったらどうする、見ず知らずの女に突然お持ち帰りされたら、そりゃ戸惑って一発殴りたくもなるだろう。


「ごめん、君に危害を加えるつもりは無いよ。安心して、私は君の敵じゃない」


落ち着かせるように、子供を宥めるような声で言い聞かせると、気の所為だろうか、青年は目元を緩めて頷いたような気がした。


なんにせよ、伝わっているのならいいんだ。



「…着いたよ。狭い部屋だけど我慢してね」



アパートの一室を開けると、長年の老朽化で劣化した床がギシッ…と軋んだ。


いつものことなので同様はしないが、青年は驚いたように部屋を見渡していた、やっぱり普通は床が軋むことなんて無いよなぁ…。