「あれ?」



HR開始の鐘が鳴ったが、担任はまだ来ない。

そんなことはお構い無しに教室内はどんちゃん騒ぎだが、気になったのはそこじゃない。


「涼くん、まだ来てないね」


「なんだ紫苑、あいつが気になるのか?」


機嫌良く私の髪を弄っていた獅貴が、一気に纏う空気を鋭くして聞いてくる。


そうじゃなくて…。


「…友達が来なかったら心配するでしょ?
あと獅貴、あんまり髪触らないで。擽ったい」


ごめん…と素直に手を引きながら謝る獅貴に、なんだか心が痛んで代わりに私から頭を撫でた。


「獅貴何か知ってる?涼くんのこと」


「…ん、たぶん今来る。から、大丈夫」


"何か"を知ってることは明白だったが、来るなら深追いすることもない。人にはプライベートってものがある。


「体調悪いわけじゃないならいいの、来るなら安心だね」


微笑んで答えると、獅貴は私の笑顔を見て嬉しそうに頬を緩めた。


「あいつはどうでもいいが、紫苑が笑うなら何でもいい」