「…紫苑、好き」
「…はいはい、私も獅貴が好き」
小声で言う獅貴に、私も小声で返す。そろそろ獅貴の不意打ちにも慣れてきた。
獅貴が嬉しそうに微笑んで、その笑顔に胸が高鳴る。
「そ、そういえば、なんで陽葵はそんな目に…?」
火照った顔を冷ますために獅貴から視線を逸らす。彼を見ていたらいつまで経っても真っ赤なままだ。前を歩く涼くんに聞くと「あぁこれ」と首根っこを掴んだ陽葵を見下ろして言った。
「置いてったら、勝手にご飯食べ切っちゃうから」
「な、なるほど…」
獅貴から意識を逸らす為に聞いたのに、案外本気で返事をしてしまった。度重なる被害(容疑者・陽葵)の果てに、涼くんは遂に学習したらしい。
今日は皆でご飯食べれそうだな、と笑う。獅貴がそんな私を嬉しそうに見つめた。どうやら獅貴は私が笑うのを見るのが好きなようだ。
「マリ、今日は皆の分食べちゃ駄目だぞ?」
「むー…わかった」
「ホントに分かってんのかぁ?」
涼くんと陽葵のふわふわした会話を聞きながら、獅貴の手を引いてBARへ急ぐ。何だか浮ついたこの気持ちは、きっと気の所為じゃない。
気付けば胸の内にあるのは幸福だけで、恐怖や不安は既に掻き消えてしまった。

