「もしものことがあったら…許せないの…。獅貴たちも…。でも一番許せないのは自分だよ…」
思い出すのは、もう何年も前の記憶だ。そろそろ褪せてもおかしくないのに、その記憶は一向に私の中から出ていこうとしない。まるで永遠に、居座るつもりかのように。
両親が許せなかった。私を勝手に置いていって、遠くに行ってしまった両親が。そしてその"遠く"はもうどこにも無くて、二度と会うことも出来ない。
失う辛さを知ってしまうと、前に進むのも怖くなる。何かを変えるってことは、何かを失うリスクを持つってことだ。
「私のせいで誰かがって、考えるだけで怖くなる」
突然失う恐ろしさ。それに加えて、自分のせいで失う恐ろしさ。絶対に味わいたくないことで、それが『大切な人』なら尚更だ。
他人からの好意が苦手?違う、私が嫌だったのはそういうことじゃなくて。
大切だからだ。大切だから、その人からの好意を受け取りたくなかった。お互いに認めてしまえば、もう後戻りが出来ないから。
「……紫苑の所為じゃない」
「…………」
視界が徐々に明るくなる。明るくなって、開ける。涙は早々に枯れたらしい、頬を伝う雫の感触も、今はもう無い。
獅貴の確信めいた言葉が、やけにはっきりと聞こえた。

