獅貴の手は暖かくて、なんだか泣きそうになる。
手を握ったことなんて、抱き締められたことなんて、幼い頃に両親にされて以来だ。
その記憶も徐々に薄れてきてしまっているが。
「獅貴」
「ん…?」
私の方を振り向く獅貴。その顔は相変わらず柔らかくて、甘さが込められている。
「ありがとう、獅貴」
「…、…」
突然の感謝の言葉に黙り込んだ獅貴は、無言で私をじっと見つめると、何か言いたそうに口を開けては閉じる。
しばらくそれを続けていたが、やがて寂しそうに笑うと完全に口を閉ざしてしまった。
「…あぁ、俺の方こそ、ありがとう」
ふわりと微笑んだ彼には、初めて会った時の威圧感や殺伐とした雰囲気は無くて、本当にただの高校生のように思えた。
けれど、あんな所にいて、尚且つ怪我もしていたとなると、少なくとも『普通』の高校生では無いんだろう。
まぁでも、言ってもどこかの族の下っ端とかそこら辺だろうな、なんて悠長に考えて、私は獅貴にアパートまで送ってもらった。