「…うるさい」
「…陽葵、今寝てました?」
片手で抱えていた陽葵がむくりと頭を起こす。理史が何かを察したように声を掛けたが…マジかお前、寝てたの?
不機嫌そうに「うるさい」と呟いた陽葵。今度は辺りを見渡して「おなかすいた」と吐き捨てる。まさかとは思うけど、倒れてる奴らが食いもんに見えてるわけじゃないよね?なんで涎垂らしてんの?
「はー…いいからお前ら、早く二人を探しに――」
「―――…"獅貴"!!」
少し遠くから聞こえた、最近では聞き慣れた声。きっとシキが今一番、聞きたかった声。その声が、シキの名前を叫んでふと現れた。
俺の言葉を遮って聞こえたその声の方へ振り返る。駆け寄ってくる影は二つだ。気怠げに走るあの影はきっと、禅のものだろう。そしてもうひとつは…―――
「紫苑!!」
暗く翳りを帯びたシキの瞳に、光が戻った。

