「……悪い」
「っ…!?」
あのシキが謝った…あの、シキが、他人に謝罪しただって…!?
驚愕の広がる脳内を宥めながら、目の前の光景を凝視する。いつもなら相手を引き離して文句の一つでも言うはずのシキが、今は素直にぶつけられた恨みを受け入れている。
無表情は申し訳なさそうな色に塗り潰されている。瞳も伏せられて、本当に後悔している様子だ。
「俺が、甘かった。悪い」
呆然とする律。二人の間に沈黙が広がって、なんとも言えない空気に包まれた。
パッと胸倉から手を話した律が、我に返ったように頭を下げる。シキはそれを無表情で見下ろしているから、何を考えているのかまるで分からない。律は本当に申し訳なさそうに言った。
「い、いや…すみません…総長…」
「…構わない」
…まぁ、何はともあれ殺伐とした空気が無くなったようで良かった。
「そ、総長が…あやまっ…俺に…俺なんかに…」
あたふたし始める律。総長になんてことを…とめちゃくちゃ後悔している様子だ。なんだか安心感が半端ない。良かった、ただのいつもの律に戻った。
「あっ、律、後ろ危な…―――」
ガシャンッ!!と響く大きな音。シキのことになると周りが見えなくなる律は、後ろの壁に立て掛けられていた鉄パイプにぶつかった。その弾みでたくさんのパイプが地面に倒れ落ちる。

