礼を言うと、彼は「別にいいよ」と素っ気なく返して顔を逸らす。耳が真っ赤に染まっているのを見て思わず笑ってしまった。素直じゃないだけで、実は優しい子なのだろう。
「…で?何しに来たんだお前」
「ちょっと、口悪いよ」
自分を助けてくれた恩人になんて口の利き方だ。と思ったけど、まぁ禅くんだから仕方ない。彼の口の悪さは通常営業なのだ。
声を掛けられた青年の方も対して気にした様子も無い。素直じゃない・口が悪いの二点において、彼らは気が合うのかもしれない。
「助けに来たー…っていうか、ここから出しに来た。アンタらのお仲間も近くまで来てるっぽいよ」
言いながら部屋の外へ向かう彼を追う。扉の先の地獄絵図に目を見張ったが、彼の様子は至って普通だ。禅くんは眉間に皺を寄せて倒れた男達を見下ろしている。
「これ、お前がやったのか?」
「んー?そうだよ、邪魔だったから退けといた」
この青年、どこかパスみを感じるなぁ…。さっきまで誰かに似ているような既視感を覚えていたのだが、気の所為だったのだろうか。今は誰にも似ていない。
それにしても、こんな小柄な青年にガタイの大きい男達が全滅とは…末恐ろしい子だ。パッと見でたぶん彼は歳下だと思うのだが…。