「…ねぇ、そこ退いて?」
「あぁ?何だてめぇ」
フードを目深に被って話し掛ける。きっと僕はもうdeliriumの奴らに怪しまれているから、顔を見られない方がいい。裏切り者だと噂されているのも気付いている。
倉庫の奥。狭い物置部屋のようなそこの扉の前に、男が数人立っている。監視のつもりらしいが、こんな所に不自然に人員を配置していたら、逆に場所が相手に割れてしまうだろう。
ANARCHYの奴らにバレないように閉じ込めているはずなのに、考えが幼稚で甘すぎる。精々二人で監視しろっての。
「入りたいの、だから退いて?」
こてんと首を傾げる僕を、男達は一瞬ポーッと見つめる。見蕩れる、と言った方が正しいか。どちらにしろ嬉しくはない。
ガタイの良い男達は、我に返るとすぐに何事も無かったかのように笑って口を開いた。
「おいおい、誰だぁ?余所者を中に入れたのはぁ」
余所者じゃない。むしろ立場的には君達の仲間だ。僕的には、君達はただのゴミだけど。
下品な笑い声を響かせてないで早くそこを退いて欲しい。中には二人の男女が居るはずだ。さっき男の方には応急処置を施したが、女性の方には何もしていない。怪我をしているなら治療しないと。
彼女の服にも血が付いていたが、返り血かどうか確認するまでは安心出来ない。事実もう一人は重症だったのだ。

