僕が翌朝帰ると、玄関に兄さんの靴が置いてあった。居間に行くと案の定兄さんが帰って来ていて、苦笑した兄さんは小声で謝罪の言葉を口にする。その姿に、僕は"やっぱり"って俯いた。
兄さんは僕が居るから帰らなかったんだ。つまり僕が居なくなれば、兄さんが帰って来る。再び兄さんの居なくなった居間の中でそう言うと、母さんは違うと首を振った。
偶然兄さんとすれ違っただけだと、母さんは言うが。そんな話信じられない。兄さんは僕が居ないことを知って帰ってきていたに違いない。
「あなたは関係無いの、そんなこと思わなくていいからっ…」
縋り付いてくる母さんを押し退ける。僕はまた家を出て、今度は繁華街へ足を伸ばした。
兄さんに嫌われているかもしれない。その事実が、可能性がショックで、僕はその日帰らなかった。ふらふらと立ち寄った街の中、兄さんの名前を聞いたのは、とても驚いたけれど。
あの優しい兄さんが族に入っていると、噂になっていた。それは通っている中学校にまで届いて、僕は好奇の視線に晒されることになった。
それでも兄さんを恨んだり、なんでこんな目にとか、そんなことを思ったことは一度も無い。
むしろ更に無力を痛感した。あの穏やかな兄さんが、喧嘩に手を染めるほど追い詰められていたなんて。

