こう言えば、きっと兄さんは帰ってくる。そう思ったから、僕は言う。兄さんは僕のお願いを叶えるために、必ず今日は帰って来る。
案の定、その日兄さんは帰ってきた。いつも通り、いや、昨日を除いていつも通り、学校が終わった時間帯に、ちゃんと兄さんは帰ってきた。僕は安心した。
きっと異常だったのは昨日だけだ。これからは元通り。兄さんはご飯を作って、僕は何も知らないフリして笑って、母さんも遅くに帰って来る。そんな日々が毎日続く。
そう確信していた。確信していた、のに。
「……兄さん、今日帰れないって」
初めて兄さんが"友達"の家に泊まってから数日。再び、どこか既視感のするメールが僕の携帯に届いた。今日は帰れない、夕飯作れなくてごめん、と。友達の家に泊まるのだと。
「そう…」と頷く母さんは、あの日のような不安そうな顔はしていなかった。何故か切なそうに、そして察して受け入れるように。そんな、なんとも言えない表情をしていた。
その表情の意味はまだよく分からなかったが、僕も同じような顔をしていたと思う。母さんが僕を見て、苦々しい笑みを浮かべていたから。
「―――……今日も、帰れないって」
二回目のそれ以降、兄さんは度々同じことを繰り返すようになった。そしてそれはやがて、頻度を増していった。

