『今日は友達の家に泊まる。夕飯作れなくてごめん』



今から帰る、とか、遅くなってごめんね、とか。そんな言葉を期待していたのに、兄さんは本当に馬鹿だ。携帯を強く握り締めて、僕は表情を歪める。


母さんは良かったと笑っていた。とりあえずは、兄さんが無事で良かったと。母さんにこんなにも心配を掛けた兄さんも馬鹿だが、僕が言いたいのはそういうことじゃない。


兄さんが事前に連絡も無しに、勝手にこんなことを決めて帰って来ないなんて、今まで無かった。そもそも誰かの家に泊まるなんて、一度も無かったのに。


そういうことが出来る友達が居るのは、喜ばしいことだ。けれど何故か、違和感が拭い切れない。自分勝手だなんて思ってない。怒ってるわけでも無い。



ただ、兄さんはこんな人だったろうかと、疑問を持ってしまっただけで。




「……なんで、だよ」




寂しそうに微笑む母さんが、兄さんの夕飯をラップに包んで冷蔵庫に仕舞う。その様子を黙って見て、湧き上がるのは虚無感と、少しの苛立ち。


突然こんなことをした兄さんに、初めに言いたいことが纏まらない。明日帰ってきたら何と言ってやろうと考えて、言葉が出てこない。


事前に言ってくれればとか、心配を掛けたことに怒っているわけじゃなくて。そうじゃ、なくて。