「俺がお前に、忘れられたくなかったんだ。でも俺はお前を忘れた。忘れたかったんだ…だから俺は弱い…」



自分勝手で、そんな自分は弱いのだと、彼は言う。それを聞いても私は、禅くんに対して負の感情みたいなものは抱かなかった。だって彼は事実、私を忘れてなんていなかった。後悔も全部、覚えていたくせに。


腕の中で身動いで、少しだけ体を離す。手を伸ばすと彼の金色の髪に触れて、その輝きに目を細めた。



「禅くん、は……」


「………」



私が語り始めると、彼は静かに視線を上げて此方を見る。俯きがちで影の落ちていた表情に、窓から射している光が淡く灯った。



「禅くんは…禅くんが、何を思っても、私にとってはヒーローだよ。禅くん自身が違うって思っても、私はヒーローみたいだなって思った」


「………っ」



当人が何を考えても、何を後悔しても、今更なのだ。彼の後悔の相手である私が、他でもない私が、違うと思ったのだから。だったらもう、彼の意志関係無く、違うのだ。



「…うん、格好良かった。ヒーローみたいだった」



私を守る為に、あの時禅くんは私の名前を叫んで、覆い被さった。その時感じたこの高鳴りは、きっと懐かしさと、高揚感だ。



「禅くん、私も忘れてたよ。でも、思い出した。禅くんが私の"ヒーロー"だったことも、全部ね」