だからこそ、これを見る度きっと思い出す。否が応でも、あの頃の記憶が蘇る。



「会いに行くって、全部嘘だ。そんなの出来ねぇって、俺は分かってた。お前を守ってたのも……」



そこで一度区切った禅くんは、嗚咽を堪えるように口元を引き結んで、不格好に歪める。けれど泣きそうというわけでも無い。ただ、湧き上がる何かの激情を、必死に抑え込むように。


忘れていたのは私もだ。まだ幼くて、色々なことが、丁度あの頃に一気に押し寄せて。不安に苛まれていたから、誰かの根底を捉えることすら、ままならなかった。


禅くんが、人一倍そういうことに敏感だって知っていたのに。自分の無力さに誰よりも向き合って、だからこそ自分の強さに気付けない、不器用な人だって、分かっていたのに。



「………禅くん」



私の小さな呼び掛けに、彼は応えなかった。グッと拳を握り締めるその姿が、何だか酷く、痛々しかった。



「…お前を守ってたのも、全部お前だ。お前が勝手に、すげぇ強かったってだけだ。それを俺は利用したんだ」


「……っ!!」



グイッと引き寄せられて、気付けば彼の腕の中だった。力強くて安心感があるのに、そこはとても震えているから、逆に不安になってしまう。


禅くんの言葉が胸に刺さった。そうじゃないって、訴えたかった。けど彼の表情が、あまりに切実な色を宿していたから。