その割にはしっかり煽ってたけどね、という言葉は飲み込む。それは彼の負けず嫌いとか、元来の性格の所為だろうから何も言えない。むしろ倉崎くんが大人しく負けを認めるところとか想像もつかない。
というかダサいなんて…そんなこと思わない。ダサいのはアイツらだけだ。刃物持たなきゃ強気にも出られないあの男達。
丸腰だったら倉崎くんに視線だけで射殺されてたはずだ。それに私の直感だと、倉崎くんはあの男達より遥かに強い。
「なんで…弱いって思うの？私からすれば、倉崎くんはすごく強い人に見えるけど」
困ったように淡く笑う倉崎くん。今日の彼はいつもと違う表情ばかり見せるなぁ…なんて、ぼんやりとそんなことを考えて。
「自信ねぇんだ…兄貴がクソ強ぇから。俺が喧嘩出来るなんて、偉そうに語るのも烏滸がましいっつーか…」
らしくねぇよな…と苦い笑みを浮かべる。彼に兄が居たのも初耳だが、それより倉崎くんがそこまで思い詰めていた事実にも驚いた。
やっぱり私は何も知らないんだなって。獅貴のことすらも、きっとまだ何も知らないのに。それだけじゃない、涼くんとか、陽葵とか、未星くんとか。
これから知っていけたらいいな、なんて思って。すぐに首を横に振る。いや、違う。関係の深まりとか、そういう問題じゃなくて、単純に知って、安心したいのだ。
