何気なくそれを指先で撫でると、何やら強い視線を感じる。見上げる先にはやけに真剣味を帯びた倉崎くんの顔。「なに？」と問い掛けると、彼は意味深に目を細めて言った。



「いや…結構、持っててくれるもんなんだな…」


「……？」



彼の言葉の意味が読み取れなくて首を傾げる。きょとんとする私に何を思ったのか、倉崎くんは「…何でもねぇ」と呟いて視線を逸らした。


過ぎる違和感は、既視感に苛まれてどこか擽ったい。これは…懐かしさだろうか。



「…そういえば、倉崎くんって喧嘩出来なかったんだね。なんか意外だな…見た目、それっぽいから」



そうだよな…と苦笑する倉崎くん。彼が口角を上げる姿は珍しくて、思わず凝視してしまった。笑顔ではなく、あくまで苦いものだが。



「…。…一応、出来る分には出来るんだ。獅貴の奴には100歩も及ばねぇけど」


「え、出来るの？」



気まずそうに頷く彼に目を見開く。いや、喧嘩が出来ても出来なくても私はどちらでも良いのだが、それならどうして出来ないと言ったのだろう。そんな疑問が顔に現れてしまっていたのか、彼はほんの少し頬を染めて答えた。



「…強ぇってわけじゃねぇから。他の幹部と比べりゃ弱いし、やられるダセェとこみられたく無かった。だったらそれよりは、大人しくしといた方が安全だろ」