「………は?紫苑がdeliriumに?」
『――あぁ。だからお前もこっちに…』
涼也の声がやけに遠くに感じる。携帯を持つ手が震えるのは動揺の所為だろうか、それとも、怒りの所為だろうか。どちらにしろ、この湧き上がる感情が並大抵のもので無いことは事実だ。
殴り過ぎて既にボロボロになった男の胸倉から手を離す。とっくに気絶していたのか、ソイツは俺の手から滑り落ちるように地面に倒れ込んだ。
「…琥太がやられて…紫苑まで…?」
あのデカブツは何してんだ。紫苑一人守れなくて何が幹部だよ。ただでさえ琥太がやられてイラついるってのに、紫苑が拉致られただって?
仲間意識なんて崇高なものは無い。ただ、琥太は同じ下っ端連中の中でもかなり目をかけていた方だった。同じ施設育ちで、性格は合わないが話は合う。
それなりに同胞として認めていた奴だが、今回のことが起こってしまって。存在を認めていただけに、怒りは大きかった。
『――今繁華街に向かってる、お前何処にいるんだ、お前もすぐ…』
「もう居る」
は…?と驚いたような声。携帯の向こうにいる涼也は、今頃ポカンと口を阿呆みたいに開いていることだろう。アイツの表情が目に浮かぶ。
「もう繁華街に居る。すぐ合流出来る」

