『わ、かった…ごめんなさい…ちゃんと、待つ』
ゆるりと口角を上げた総長は、一言"いい子だ"と囁く。涼也さんの携帯の画面を押して、通話を強制的に終わらせた。その振動で、呆然としていた涼也さんが動き出す。
その携帯を何やら操作して、今度は自分の耳に当てる。余裕の無い表情のまま、彼は総長に視線を向けた。
「deliriumがマジで関わってんのか調べる。お前らは先に繁華街に向かってくれ。ついでに律も行かせとく」
早口で言い切って、涼也さんは中庭から病院内に入っていった。進んだ方向には正面玄関があるから、きっとそのまま病院を出るつもりなのだろう。
公共の場では空気を読んだりマナーも普通に守る涼也さんが、通話しながら中へ行ってしまった。
「理史」
「……」
静かに短く、名前を呼んだ総長に頷く。涼也さんは関係を調べると言っていたが、仮に廊下の血が禅さんのものだとしたら、間違いなく相手はdeliriumの人間だろう。
紫苑さんの護衛は禅さんに任せていたはずだから、禅さんが連れ去られたのなら、必然的に紫苑さんも拉致されてしまったはず。
なんだかんだ言って紫苑さんのことは気に入っている様子だったし、彼女のことは禅さんが守ってくれていると信じよう。
不安に揺れる本心をひた隠しながら、手前を急ぎ気味で歩く総長を追い掛けた。
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