「貴方は病院に着く前に、既に"適切な処置"を受けていました。血は流れたものがこびり付いていただけで、止血は完璧だったと医者が言っていましたよ」
殴られたものと蹴られたもの。それとは別に、切り傷も多くあって。けれどその切り傷から吹き出ていた血が全て、止血されていたのだ。
俺たちが琥太を見つけた時は、体が全身血塗れだったから気が付かなかった。たぶん琥太には切り傷からの痛みは無くて、殴られた衝撃やらで気を失っていたのだろう。
重傷人にこれほど適切な処置が出来る人間はそう居ないと、医者は朗らかに笑っていた。
「なら、誰が貴方を助けたんでしょう。ANARCHYの人間ではあるまいし」
ANARCHYの者なら、すぐにでも琥太を病院に連れていっただろう。けどそれをしなかった。俺たちに見つけ出されるのを、望んでいたかのように。
だとしたら、琥太を助けたのは恐らくdelirium側、若しくはそれに限りなく近い人間だ。ANARCHYの人間を助けた事実を、deliriumに知られたくない人間。
「………」
琥太は数秒黙り込んで、感情の読めない目で俺を見据えた。けど疑わしい色はそこにはなくて、至って真面目で、真っ直ぐな視線だ。
言えないのだろうか、それとも言いたくないのだろうか。もしそうなら、一体どうして口に出来ないのか。