「───…っ…ぅ…」
「……っ!?」
ガタッと音を立てて立ち上がる。病室の静かな空気に、パイプ椅子が揺れて騒々しい音を響かせた。と言っても、ここは個室だからそんなに焦る必要は無い。
目の前のベッドでピクリとも動かず眠っていた"彼"の口から、僅かだが低い呻き声のようなものが聞こえた気がした。
「琥太…?」
前のめりになって琥太の顔を覗き込む。ベッドの両脇に取り付けられたガードのような手すりに手を当て、煩く感じないよう控えめに呼び掛けた。
その呼び掛けに応えるように、伏せられていた瞳がピクッと震える。何度かそれを繰り返して、やがてそれはゆっくりと開かれた。
「…、…っ…りひと、さん…?」
掠れた声だ。けれどちゃんと呂律は回っている。視覚にも問題は無いようだ。念の為後遺症やらを危惧していたが、この様子だと大丈夫そうで安心した。
「っ…りひとさっ…、…すんません…!」
やがて驚いたように目を見開いた琥太は、慌てたように上体を起こそうとする。その時に激痛が走ったのか顔を歪めて、不安定な体勢のまま頭だけ下げて謝罪してきた。
何に対して謝っているかは別として、まずは緊張した琥太を何とかしてやらなくては。これでは怪我をした体を休ませることも出来ないだろう。