倉崎くんは真っ直ぐ、淀みのない目で日下くんを見据えて言った。少しの震えも無い、凛とした声で。




「おい日下。コイツは逃がしていいだろ、俺だけなら殺すなり何なりすりゃあいいからよ」


「倉崎くん…!?」




声を張り上げ叫ぶが、倉崎くんは平然とした態度で気丈に振舞っている。その判断をさせない為に色々考えてたって言うのに、結局はそういうことになってしまうのか。


何とかこの状況を打開しようと思考を巡らせるが、どうやら遅かったらしい。先輩達もそろそろ限界のようで、血走った目で此方を睨んでいる。歪んだ口角を愉しそうに吊り上げながら。



「…でもまぁ、本来の目的は紫苑ちゃんを拉致ることだし。ここで邪魔な倉崎を殺しといた方が良いよねって感じ?」



それを先に言え!!と文句を言う前に先輩達が動き出す。日下くんのこの言葉が合図かのように。


視界の端で鉄パイプを振り上げた一人の男に、突然のことで反応が大きく遅れた。緊張、と言うより、多分これは、恐怖だ。


確かに体が震えた。




「────紫苑ッ!!」




ガンッ…と鳴る鈍い音と共に、振り上げられた鉄パイプが視界から消える。見渡す全てが真っ暗に染まったからだ。


そして今日何度目かの、温かい感触。体を包む大きな腕。