授業中の為か、辺りは静かだ。話題が無くなってどちらも口を開かなくなったのもあるのかもしれないが、かと言って、気まずい空気みたいなものは不思議と無い。
静寂の広がる廊下に、規則的で無機質な足音がひとつ増える。私たちの他にも誰かが授業をサボっているのだろうかと、深くは考えなかった。教室に居ても真面目に授業を受けているのは極小数だからだ。
「…待て」
その足音に機敏に反応したのは倉崎くんだった。彼は眉を顰めて、私の前に動きを遮る為か片腕を上げる。
必然的に進めなくなり立ち止まって、硬い声の倉崎くんを横から見上げた。
「どうしたの?」
問い掛けるが、彼は何も答えない。険しい表情と顰めた眉が、強面の顔に更に威圧感を与えている。前なら怖気付いていたが、最近はその表情にも慣れたものだ。
足音を酷く警戒しているようだ。そんなに教師に見つかるのが怖いのかな、と呑気に考えている。いつもならむしろ教師の方が、倉崎くんを見つけた時に真っ青な顔で逃げて行く。
「…あの、大丈夫?」
何度か呼び掛けるが、倉崎くんはそれに応えない。こちらを一瞥した瞳が「静かに」と訴え掛けているように見えて、反射的に口を噤んだ。
そんな中でもカツカツ…と近付いてくる足音。この場面には何だか、既視感がある。

