全てを隠されるよりはずっと良い。事情さえ知っていれば、あとは良いのだ。皆と全部分かち合いたいとは思っていない。知らないところで危険な目に合っていないなら、何でもいい。



「………」


「…倉崎くん?」



突然ピタリと立ち止まった彼を、数歩先で振り返る。さっきから見下ろしていた携帯の画面を凝視して、何やら眉間に皺を寄せていた。


一瞬僅かに見えた画面には『理史』の文字。未星くんからのメールだろうか。



「倉崎くん…大丈夫?」



気の所為か、彼の表情にはほんの少しの怒りの色が見え隠れして、携帯を持つ手は震えている。俯きがちの顔を見つめていると、彼が唇を噛み締めたのが見えた。



「…何でもねぇ。さっさと行くぞ」



何でもないと答えて視線を上げた彼の顔は、いつも通りの仏頂面だ。強面で勘違いしやすいが、この顔が通常らしい。


不安に思いながらも、彼が『何でもない』という時は、違和感があって聞き返しても絶対に話してはくれないので、何も聞かずに頷いた。



「…君は行かなくていいの?」


「どこに」



「…獅貴達のとこ」と控えめに付け足すと、倉崎くんは目を細めて黙り込んだ。少し踏み込んだ質問だったろうかと俯くと、頭にポン、と大きな手のひらが乗っかる感触がした。


不器用な撫で方に慌てて顔を上げる。視線の先には、無表情ながらも呆れと苦笑の混じった色を浮かべる瞳。