「…未星くんも居ないね」
獅貴がANARCHYの件で何処かへ行ったなら、必然的に涼くんも着いていくというのは何となく分かる。けど未星くんまで居ないのは予想外だ。
授業中の教室内をドアの窓からそっと覗いて窺うが、窓際周辺の席はほとんど埋まっていない。大体の人たちが座らず好きなように動いているから目立ってはいないが。
私たちの席に座っているのは一人だけだ。机に抱きつくように伏せて寝息を立てる陽葵。ぐっすり寝ていて気持ち良さそうだから起こさないでおこう。
「…どうする?」
「決まってんだろ、サボんぞ」
決まってたのか。ならわざわざ教室まで来ること無かったじゃないか。なんて文句を垂れそうになったが、まぁ来てしまったものは仕方ない。
どこ行く?と問い掛けると、彼は一瞬ピタッと動きを止めて直ぐに踵を返す。目的地はたぶん、あそこだ。以前彼がサボっていた、あの空き教室。
「あそこ、気に入ってるの?」
「別に。あの教室が一番日当たり良いんだよ」
返ってきた答えを聞いて、思わずふふっと笑う。なるほど、彼にとっての"サボり"は寝ることなのか。確かにあそこは暖かかった。
「今度、獅貴達も連れてきたいね」
「アイツらは来なくていい。占領される」
相変わらず辛辣…と苦笑したが、教室を占領する彼らの図が目に見えるので口を噤んだ。