拾った総長様がなんか溺愛してくる(泣)【完】




「…これ何とかしとけ」



仲間相手に『これ』呼びってお前な…。


呆れて軽く窘めようと振り返り、目を見開いた。琥太の前にしゃがみこんで、背後に立つシキを見上げる姿勢。その先で見下ろされると、威圧感が更に増す。けどそれだけじゃ無い。


何の色も籠っていないと思っていた瞳は、僅かだが怒りの感情が宿って見えた。瞳の最奥で、燃えるように。



「シ、シキ…?」



引き攣る口角を何とか上げながら呼び掛ける。シキは俺に目もくれず踵を返すと、路地裏の更に奥へ続く方向へ颯爽と歩き出した。


そっちにはdeliriumの人間が居るはずだ。繁華街の中枢へ行く道だから。



「おいシキ!そっちは駄目だ!!」



ここが繁華街の入口に限りなく近いことが、今回では唯一の救いだった。もっと街の中に入り込んだ所に琥太が居れば、回収には来れなかったはずだから。


だというのに、シキはわざわざ自分から死地に向かっているようなものじゃないか。


慌ててシキの手を掴んで、必死に語る。なるべく声を堪えて。



「…今deliriumの奴らに会うのは避けたい。俺らだけで何が出来るってんだ。今回の目的は琥太を回収することだけだろ」



シキは何も言わない。俯いたその表情は、陰に隠れてよく見えない。だからコイツが今何を考えているかなんて、俺には分からない。