名前は確か――――
「琥太、だっけ?理史が結構目掛けてた奴だよな、アイツ幹部候補に何とかー…って言ってたし」
「…こんな弱い奴、幹部にするつもりだったのか?」
絶対零度の声。最近その声は滅多に聞いていなかったから、途端に体が強ばる。そういえばコイツは"あの"芹崎獅貴だったと、脳が思い出す。
味方にも敵にも容赦が無い。ANARCHYにも興味を持たない。およそ族の総長としては相応しいとは言えない、そんな人間。
お前が認める奴を選んでたら、いつまで経っても幹部は集まらないだろ…なんて愚痴が零れそうになるが。
「でも、さ?見る限り大人数でやられたっぽいし。下っ端のコイツが相手するにはキツすぎたんじゃない…?」
最大限のフォローを入れてみるが、シキの顔は無表情のままだ。紫苑ちゃんに向けられる温かく優しい表情を見慣れてしまった所為か、どこか違和感が拭い切れない。
けど今日はそれだけじゃ無いんだろう。会った時から不機嫌な顔だったし。大方紫苑ちゃんに会えなくて苛立っているのかと思っているが。
「ANARCHYに弱い奴は要らない」
「………」
苦笑を浮かべる。いつもANARCHYのことなんて興味も無いくせに、こういう時だけ辛辣だ。一応次の代のことを考えてくれてるって、都合のいい解釈をして安心しておこう。

