「……お前さぁ」
さっきから続いている何とも言えないこの空気。見ぬフリをしていたが、そろそろ俺も限界だ。ため息混じりに一言目を繰り出す。
繁華街の路地裏。まだ朝っぱらだと言うのに、そこは酷く治安が悪い。というか物騒だ。ネオン街の方がまだ穏やかだろう。
「いい加減機嫌直せって、な?紫苑ちゃんに会えなくてイライラすんのは分かるけどさ」
そんなことより目の前の状況に憤って欲しい。そう思ってしまうのはあくまでANARCHYの副総長としての意見なので今は言わない。
この件については、シキは『涼也』としての言葉以外聞かないからだ。
「仕方ないだろ?deliriumの奴らが動いたってなったら、総長のお前が出ないと―――」
「そんなこと分かってる」
ほんとに分かってんのか、という文句は噤む。俺はシキと言い争いがしたいわけじゃない。ただでさえ今いる場所は、俺らが居るってだけで緊張感が高まるのに。
ここは、繁華街はdeliriumが支配している。そこに敵対してるANARCHYの、それも幹部と総長が来てるなんて喧嘩を売っているようなものだ。
まぁでも、これは不可抗力と言えるだろう。
「…取り敢えず、コイツ病院に連れてかないとかなぁ」
目の前に倒れている見慣れた顔。以前倉庫に行った時、それはもう元気な挨拶をくれた下っ端だ。

