「…あっそ、まぁ知ってるけどな」
教えないと言ったことを"知っていた"という意味だろうか。それとも…なんて考えて、それはお互い様かと微笑んだ。
「……」
見上げた先の空は青く澄んでいるが、その景色を綺麗だと思っている人間は、きっとこの場には居ないのだろう。ただ真っ白い紙に青を塗りたくったみたいな、そんなつまらない空を。
一瞬盗み見た彼の横顔は若干憂いを帯びていて、けれどどうしたのかと心配はもうしない。彼が肩を落とす時は、大抵退屈な時だけだ。
「…。…今日一日、俺から離れんなよ」
「…どうして?」
「どうしても。こっちにも…事情があるんだ」
ふと向けられた視線の中には、真剣な色。彼はこういう感情の切り替えが素早いから、それを受ける側は混乱してしまう。
慣れると、そういうものなんだろうな、とか、そういう人なんだろうな、とか、少しくらいは余裕を持てる。
彼の言葉の意味に、深追いはしない。言い難い返し方をされれば、それ以上は聞けない。
「…分かった。ずっとくっ付いてるから」
「あぁ、そうしとけ」
適当な声音で答えた彼の顔は、ほんの少しだが楽しそうに笑っていた。
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