目を細める倉崎くん。何を思っているかは分からないが、その瞳には何となく、優しい色が込められている気がした。勘違いでなければ、だけど。
「……紫苑」
「……え?」
そんな倉崎くんの口から漏れた、有り得ない単語。いつもは『お前』とか『おい』とかなのに、彼は今何と言った…?
反応が少し遅れてポカンと返事をすると、見上げた先の彼が悪戯っぽく笑う。
「紫苑の、どうでも良くないものは?」
「―――…っ!!」
言葉では聞いてくるくせに、彼の目は既に見透かしていると言うかの如く澄んでいる。その答えも、彼の言う"どうでも良くないもの"の正体も、全て分かっていると言うように。
ただ、揶揄う為のほんのちょっとした質問だとは分かっていたけれど。大方愉快なことを好む彼のことだから、名前を呼んだらどんな反応するかとか、そんなことを考えていたのだろうけど。
そうだ、だって彼は退屈が嫌いで、面倒なことが嫌いだから。つまらない話題にも、すぐに飽きてしまうのだろう。
「―――…ある。けど、教えてあげない」
真面目な話ばかりで、疲れてしまったのだろうか。それなら申し訳ないことをした、と軽く反省して、今度はどんな話をしようかと、楽しさで鼓動が鳴る。
倉崎くんはやっぱりどこか、不思議だ。彼と話すのは楽しくて、思うことは通じ合う。心地が良いのだ、彼の傍は。

