「どうでも良くないのは?」
歩きながら問うと、倉崎くんは感情の読めない視線を空から私に向ける。数秒経っても答えは出ないから、少し難しいことを聞いてしまっただろうかと反省した。
ごめん、忘れて。そう言おうと口を開きかけたが、それより先に彼の呼吸の音が変化する。話す前の、息継ぎのようなそれだ。
「…ある。けど、教えてやらねぇ」
「……っ」
真剣味を帯びた瞳。らしくないと思ってしまうのは許して欲しい。全てにおいて適当で、ぞんざいな扱い方をする倉崎くんだから、余計驚いた。
そういえば彼は以前、獅貴達とは居なきゃならないから一緒に居る、と言っていた。あれはANARCHYのことだったのだと今なら分かるが、考えてみれば、寂しい答えだ。
私から見れば、獅貴たちは楽しそうだけどな。陽葵とか涼くんとか、未星くんとかも。律だって、獅貴が居ると生き生きしてる。
そんな中、倉崎くんだけがどこか、異質だ。
どうでもいいと断言してしまうその姿勢も、けど空気を保つような、曖昧な動きも。そんな彼にとって、"どうでも良くない"と、断言させるものは一体。
「…うん、そっか。あるならいい、良かった」
気になったものはとことん知りたい主義だけど、これはまぁ、良いだろう。どうでも良くないものなんて、誰にでもあるのだ。だからわざわざ掘り下げる必要は無い。

