「…そうか」


何やら複雑そうな顔で答える倉崎くん。彼のこういう表情はよく見るけれど、妙な既視感があるからおかしな感じがする。


複雑そうな、と言うよりは、悔いを噛み締めるような表情。



「…獅貴の急用って、危ないこと?」


「は…」



話を逸らそうと特に何も考えずに聞いてしまったが、これもしかして今より気まずい話題なんじゃないか。もう聞いてしまったから取り消せないのだが。


驚いたように目を見開いた倉崎くんは、その顔のまま目を瞬かせて問い掛けてくる。


「お、お前…ANARCHYのこと…っ」


「…?あぁ…!!」


普通に聞いてしまったが、そういえば倉崎くんは昨夜のことを何も知らないのか。私だけ色々あったから、何事も無かった彼らに違和感を抱いてしまう。


倉崎くんは焦ったような目で何か言いたげにしているが、この様子から察するに何やら誤解していそうだ。



「は、離れようとか、思ってねぇよな?怖くなって獅貴の奴から逃げ出そうとか…」



やっぱり誤解してた。どうしてそこから獅貴の話にと思ったが、獅貴は私のことが…だからか。言葉にするのが何だか恥ずかしい。


ていうか倉崎くん、獅貴の気持ちに気付いてたのか。確か鴻上さんも察している感じだったけど、あれかな、もしかして私が気付いてないだけ?