「…何あったか知らねぇけど、」


考え込む私をじっと見て、倉崎くんは何を思ったのかぎこちなくそう区切る。視線を上げた私に目を細めると、真面目な顔で続けた。



「急用ってのはマジだ。
俺もその急用の内容を知ってる」


「そ、なんだ…」



不安を見透かされたのは驚いたが、倉崎くんだからな…という謎の信頼がある。彼は不思議な人だ、偶に出る優しさに、懐かしさを感じてしまう。



初めて会った気がしないのだ。



「…。…そんじゃまぁ、行くぞ」


「あ、うん」


催促する倉崎くんに頷いて慌てて外に出る。扉を閉める時に何かが軋む音が響いたが、いつものことだと無視する。老朽化が進んでいるとか何とかって、以前大家さんが言っていた。


錆びた鍵を無理やり鍵穴に差し込んで回す。力を入れないと鍵が閉まらないのだ。



「…お前、来た時も思ってたけどよ…
…なんでこんなボロアパートに住んでんだ…?」



戦慄した顔。ここに来る一般的な金銭感覚と生活水準の人間は大体こう言う。獅貴なんてこの前、人間の住むところじゃないって言ってた。かなり失礼だぞ。



「普通の所に住むほど、余裕のある生活送ってないの。生きるだけで精一杯だよ」



本当はもっと上手い生き方があるのだろうが、それは私の不器用の前では成せないものだ。節約してると言ってもこんなだから、私は一人暮らしに向いていないのだと思う。