「っ…」
さっきから熱かった目頭。長く動き続けた所為で、流れないよう堪えていた雫が、振動で頬を伝って落ちる。
獅貴が居なくなってほんの少し冷静になった今、ようやく全ての本音に気が付いた。
「…っあぁ…もう、なんで…」
弱っていたのだ。一日で、短時間で、多くのことがあり過ぎて。知らない男達に襲われそうになった恐怖は、隠していても相当のものだったし、ANARCHYのことも完全には受け止められていない。
全部中途半端に理解しただけで、頭の中は混乱している。その上獅貴が、あんなことを言うから。
「わたし、も…」
―――『好き』って言葉は、嫌いだ。
自覚してしまうのも、知ってしまうのも怖い。好きっていうのは呪いみたいなもので、一度囚われると、二度と抜け出すことは出来ない。
他人からの好意が苦手だった。大切に思えば思うほど、思われれば思うほど、不安や恐怖は大きくなっていく。
失う恐ろしさを、知りすぎているからだ。
「私も、獅貴のこと…」
本当は初めから気付いていたのに、認めることだけはしなかった。知らないフリと、見ないフリが得意なのだ。昔から。
でも、それでも脳裏に過ぎるのは、失ったあとの恐怖。言いたいことはたくさんあって、一緒にしたいことも飽きるほどあったのに、その全てを達成出来ないまま、突然終わってしまう絶望。

