暗くなった路地を半ば駆け足で歩む。すると、獅貴は前触れもなく突然立ち止まった。急ブレーキを掛けるように。
「わ…!」
反射的に足を止めたものの、勢いが余って前のめりに倒れ込む。視線の先に地面が見えて、思わず目を瞑って衝撃に備えた。
けれど、覚悟していた痛みは来ない。代わりに感じたのは、体を包む温かい何かだ。
「―――…?」
目を開けると、視界に広がるのは暗闇。そこから逃れる為に上体を戻そうとするが、何かに阻まれて離れることが出来ない。
仕方なく顔を上げると、唇と唇が触れ合っしまいそうなくらいの至近距離に、獅貴の美形が現れた。
「!?!?」
驚いて声すら出ない。固まった私の体を、獅貴は解放するどころか抱き締める力を更に強めた。
「…紫苑」
「っな、なに」
動揺した声が吐き出される。獅貴は瞳を何故か熱っぽく潤ませて、私の名前を機械のように繰り返し呼び続けた。
辺りの静寂が今は辛い。ネオン街は夜になったら物騒だって聞いていたのに、今日に限って空気は平和だ。気配を感じ取ろうとしても、私と獅貴、二人分のものしか無い。
「紫苑、嘘じゃない、ちゃんと聞いてくれ」
切羽詰まった声。ちゃんと聞いているのに。そう表情で返すと、獅貴は納得出来ないとでも言うように首を振る。そうじゃないのだと、瞳が語っている。

