獅貴に視線を向けた鴻上さんが、困ったように微笑む。無垢な子供を見守るようなその目に、何だか恥ずかしくなる。保護者のような目だ。
「獅貴くん。気持ちが逸るのは分かるけど、ちょっと落ち着きましょう?紫苑ちゃんが混乱してしまいますよ」
流石大人だ。一番落ち着いている。傍観者なのだから当然なのだが、ここで冷やかしたりしない辺り本当に"大人っぽい"と言えるだろう。
獅貴はムッとしたように目を細めたが、すぐに無表情に戻ってガタッと立ち上がる。私を見下ろして、手を差し出してきた。
「…帰るぞ、送る」
「…ぁ、うん…」
反射的に手を取ってしまい動揺したが、こうなったら仕方ないと頷くだけで留める。アイスココアが若干残っていたが、獅貴の強い力には敵わないので心の中でお礼と謝罪を繰り返した。
「鴻上さん、あの、ありがとうございました…!」
やっぱり、とお礼だけは口にする。随分早口になってしまったが、そこは許して欲しい。穏やかな笑顔で手を振ってくれたので、きっと大丈夫だろう。
「し、獅貴っ、どうしたの、急に…っ」
「………」
ドアを開けると、小さなベルが控えめに音を鳴らす。バタンッと閉まったドアを名残惜しく感じて振り返るが、私の手を引く獅貴の足は止まらない。遅くなる気配もない。

