酷く焦ったような表情。いつもの余裕気なクール顔はどこにも無い。そんな獅貴に目をぱちぱちと瞬かせると、獅貴は安心したようにほっと息を吐いた。
「よかった…無事で…」
大きな溜め息と共に、獅貴が体を寄りかからせてくる。抱きつくように倒れ込んだ獅貴を慌てて受け止めた。
背中に腕を回して、背中をぎこちなく撫でる。肩…と言うより首か、顔を埋めた獅貴は、猫のように擦り寄って来た。
「ど、どうしたの急に…何かあった?」
「…あ?」
問い掛ける私に、獅貴はぽかんと首を傾げる。こういう顔も珍しい。数秒固まった獅貴はバッと体を起こして、鴻上さんの方を鋭く睨んだ。
「…おい、どういうことだ」
ふわりと微笑んだ鴻上さんに怯えた様子は無い。普通の人間だったら怖がるはずの殺気。私でも今声が出ないのに、やっぱりこの人本当は凄い人なんじゃないか。
持ちかけていたカップをソーサーに戻して、鴻上さんは口を開いた。
「嘘は言ってませんよ。紫苑ちゃんが男に襲われていたのは事実です」
「なっ…!!」
あっけらかんと言い放った鴻上さん。その言葉に再び私の体を見下ろす獅貴。そっと鴻上さんに視線を移して気が付いた。
話している最中、僅かに視線が動いていたかと思ったら、獅貴にメールでもしていたのか。膝元を見ると、確かに携帯を手に持っている。