「…ちゃんと、話して欲しかった。
…言ってくれれば、受け入れたのに」



言いながら、落胆したような自分の声に驚いた。落ち込んでいるのだろうか、私は。悲しいような、寂しいような。何にしろ、なんだか悔しいのだ。


信じて貰えなかったのが、悔しい。



「紫苑ちゃん…」



眉を下げて、同情するように目を伏せる鴻上さん。確かに、嫌われたくないからって理由は分かる。身近な人に拒否されるのは、辛いことだろう。


けど、それを知ってしまった側はどうすればいいんだ。このやり場の無い、複雑な気持ちをどうすれば。


俯く私と鴻上さんの間に沈黙が流れる。何となく手に持ったカップ、その中の氷がカランと小さく音を鳴らして、物寂しい空気に支配された。


時が止まったようなその場を動かしたのは、視線の端にあるコーヒーだ。



「……?」



動かしていないはずの、鴻上さんが飲んでいたコーヒー。その水面がユラユラと円を描いて揺れている。


はっとして振り返る前に、BARの扉がバンッ…!と荒々しく開かれた。



「紫苑っ…!!」


「…は…獅貴…?」



夜にも関わらず暑い外。そんな中走ってきたのか、息は切れて額にも汗が滲んでいる。獅貴はバタバタと忙しなく駆け寄って来て、私の肩を両手で強く掴んだ。



「怪我はッ、怪我はないか…!?」