鴻上さんはふにゃりと苦い笑みを浮かべた上で、カップを手に取りコーヒーを啜る。眉がピクリと動いたが、中身が冷めていたのだろうか。



「…。…deliriumというのは、繁華街の人間が勝手に呼び始めた名前なんです。それがいつしか定着して、皆そう呼ぶようになりました」


「………」



元々表立っての『族』では無かったということだろうか。周囲の傍観者達が勝手に付けたそれが広まり、今では本当に族として、ANARCHYと敵対していると。



「deliriumは今、ネオン街にも現れているそうです。以前とは違い、本気でANARCHYを狙いに来ている。だから紫苑ちゃんに、警戒して欲しかった」



私に警戒して欲しかった、というのは、ANARCHYの弱みとして私が狙われてしまうから…?


何となく話が見えてきたが、それは確かに心配もされるか。鴻上さんが私に伝えたかったことの真意を漸く理解した。


獅貴の弱みになったつもりは毛頭無かったが、傍から見ればそう思われてしまうのも無理は無い。ていうか、それなら尚更獅貴たちには初めから言って欲しかった。


これじゃもしdeliriumにちょっかい掛けられてたとしても、何が起きているか把握出来なかったじゃないか。



「…ちゃんと、」


「…?」



ボソッと零した言葉だったが、鴻上さんには聞こえたようで、首を傾げて続きを促す。区切った言葉から先が、ため息の後に遠慮がちに呟かれた。