とんでもない厄介物件を拾ってしまったかと思い詰めたこともあったが、後悔したことは無い。獅貴くんは冷静で、いつも余裕があるように見えて、奥底で限界を堪えているような気がしたからだ。


ただの思い過ごしなのかもしれない。彼自身はそれを望んでいないのかもしれない。


先代が呆れ顔で言っていた通り、お節介が過ぎるのかもしれない。



けど、初めて会った時の違和感が拭えないのだ。



光の無い瞳も、全てを諦めてしまったかのような表情も。一体何が、彼をそこまで追い込んだのか。どうしても気になってしまう。



そして、獅貴くんを引き入れ二年程経ったある日、ANARCHYの平穏は崩れ去った。先代で全ての族を纏め、抗争も鎮静化されたと思われたその時、新たな火種が撒かれようとしていたのだ。


ネオン街の郊外に集まった、抗争で現れた残党。


ANARCHYに嫉みを持つ人間が自然と一つに集結され、それはやがて『delirium』と呼ばれるようになった。獅貴くんを総長に指名した、半年後のことだった。


瞬く間に"それ"は勢力を広げた。ネオン街と対にある繁華街にdeliriumは纏まるようになった。


激化とまでは行かない。けれど確かに抗争の頻度は上がり、今まで一週間に数人居るか居ないかの人数だった怪我人も、目に見えて増加した。


その為に、俺は高校卒業と同時にANARCHYを抜けた後も、彼らの周囲を見守ることにした。先代が族を抜けた後もANARCHYに関わるのは異例だったが、それ程咎めは無かった。



俺が"あの"鴻上遵だということもあったのだろう。




歴代最弱でお節介の、鴻上遵だと。