カタ…と目の前のテーブルに置かれたのは、氷の音が涼しげに鳴るアイスココアだ。夜にも関わらずジメジメとした暑さで汗をかいていたので、冷たい飲み物はとても助かる。
一口手早く飲んでソーサーに戻す。向かいの席に座った鴻上さんに視線を向けた。
「何で、って顔してますね」
ふふっと笑って言う彼に曖昧に微笑む。その通りだ、どうして鴻上さんは私をBARに連れて来たのだろう。
彼処で助けてくれた時点で別れれば良かったはずだ、若しくは彼なら、途中まで私を送るという判断を下したかもしれない。
態々ここまで私を呼んだ理由は、一体何なのか。
「…大した意味は無いんです、ただ少し、紫苑ちゃんとお話がしたくて」
カップの持ち手に指を通して、そっと飲み口を口元に持って行く。彼のその仕草がやけに上品で、無意識に見蕩れてしまった。
ほんの少し覗いて見えた色合いを見るに、飲んでいるのはコーヒーだろう。
「話って…獅貴達のことですか?」
「っ…はは…。
…そこまで察していてくれたんですね…」
驚いたように一瞬ピクッと肩を揺らした鴻上さんだが、直ぐに落ち着いた穏やかな笑みに戻る。
正直、この人とは獅貴たちを間に挟まなければ余り交流が無い。彼と話をするとなれば、必然的に彼らが話の内容に関わってくるのだ。

