「そんな冷たいこと言わないでさぁ」
「っ…!!」
後退った瞬間、赤髪の男にガシッと腕を掴まれる。慌てて振り払おうとするが、男の力には敵わず為す術が無い。
「は、離して…!」
焦りを表情に浮かべる私に、二人は興奮したように拘束する手を強めてくる。
恐怖が体を支配して動くことが出来ない。震える体をどうにかしようと力を込めるが、足は固まったまま進まない。
助けてと心の中で叫んだ瞬間、目を見開く。
―――私は今、誰の姿を思い浮かべた…?
「おい」
男達の背後から聞こえた低い声。目の前は二人に塞がれて見えないし、私は恐怖で俯いてしまっていた。その声に既視感を覚えたと同時に、二人の男が目の前から消え去った。
何かが折れるような鈍い音と共に、苦痛に喘ぐ呻き声が響き渡る。
「は……?」
男が視界の端に吹き飛んだ衝撃で、その場にふわりと風音が轟く。髪が靡いて慌てて手で押さえた。
「紫苑ちゃん、大丈夫ですか?」
カツ…と靴音を鳴らして目の前に立ったのは、マッシュウルフの柔らかい茶髪を揺らした鴻上さんだった。何か凄く良い笑顔だけど、今何したの…?
白目を剥いて倒れる二人の男を凝視する。交互に鴻上さんを見て何とか状況を把握しようとするが、如何せん脳が全く追い付かない。