拾った総長様がなんか溺愛してくる(泣)【完】

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「…それで?」



「…それで、と言うと」



暑さ対策の為に開き切った窓、そこから流れて来る歓声やら笑い声やらを背後に廊下を進む。並んで歩く未星くんに視線を向けると、彼は一瞬驚いたように目を見張った。



「何か話があるんでしょ。じゃなきゃ未星くんが先手切って手を貸すのって有り得ないし」



先日の話からも察したが、彼は距離感を慎重に見極めるタイプの人間に見えた。関係に明確な名前の無い相手には不用意に関わらない。


私なんかが良い例だ。まだ少ししか話したことが無いのに、何故か彼は積極的に私に関わろうとした。しかも二人きりになる場面まで作って。


何か別の目的があるとしか思えない。



「はは…やっぱり紫苑さんには敵いませんね…」



乾いた笑い声で苦笑した未星くんは、困ったように目尻を下げて微笑む。



「先日の…弟の件で…」



あぁ、と頷いて続きを促す。そういえばあれからどうなったのだろう。弟くんとは話が出来たんだろうか。お母さんとも、誤解を解くことが。


未星くんは以前より、あの日話をする前よりも、笑顔が自然になった。マスクで隠された顔も、沈んだものが少なくなって。


やっぱり、ちゃんと話せたってことだろうか。



「実はその…弟にはやっぱり会えなくて…。
連絡もしてみたんですけど、既読無視ですね…」



母とはちゃんと話せたんです、と柔らかく微笑む未星くん。私は「そっか」と一言囁いて、彼が口を開くまで何も言わなかった。